ハタチ。税理士とキュレーターになったら?
3年前、二十歳の頃。元々はお洋服を作っていたわたしが、大阪・心斎橋にある、ずっと憧れていた企画ギャラリーで働くことになった。
初めて足を踏み入れた時に目に入ったのは、真っ白ではない壁だった。展示する作品に合わせて、そのつど施工し直された壁。セレクトされているアーティストは、もともと自分が好きだった人ばかりで、壁すらもその作品を引き立てるために存在しているような、勢いのある空間だった。現代アートらしい第一印象の奥に、何かを強く訴えかけてくる、引き込まれる空間だった。当時観覧したのはアメコミの文脈を持つ作家さんの個展であった。何を考えて作られたのか、ワクワクが止まらないそんな衝撃の強いときめきもあった。
働き始めてすぐの搬入の日、ギャラリーの隣にあるイタリアンへボスにスタッフと連れて行ってもらった。そこで言われたのが「ひろこちゃんもキュレーターと税理士になったら?お薦めだよ」という一言だった。何の話かわからず、曖昧な笑みで受け流した。税理士という言葉が、目の前の憧れのキュレーター(ボス)とどう繋がるのか、そのときはまだピンときていなかった。
種明かしは、同じ席で本人の口から聞いた。あの憧れのキュレーターは、元税理士だったのだ。
とはいえ、その日すぐに何かが変わったわけではない。翌年になってようやく、税理士を目指そうと思うようになった。それでもまだ、他の仕事を続けながらの遠い目標のままだった。実際に税理士事務所でアシスタントとして働き始めたのは、つい3ヶ月前のことだ。
アートと税理士の繋がりの意味を本当の意味で理解したのは、もっと後、別のギャラリーで働くようになってからだった。特殊な請求、清算方法や支払でギャラリストたちがお金の管理に苦労している場面を見た。ギャラリーに所属していても、作家さんは個人事業主として扱われる。会計の勉強をしていることを作家さんに話すと、「それはすごく頼り甲斐がある」と言われたことが数回あった。作品や空間をつくる人はたくさんいても、それを支える数字や仕組みを扱える人は少ない。
だから今、見習いキュレーターとしての活動を続けながら、税理士事務所で働き、試験勉強をしている。傍から見れば遠回りに見えるかもしれない。けれどこれは、あの搬入の日に聞いた一言から、3年かけてまっすぐ続いている道だと思っている。
年齢を重ねるというのは、すごいことだと思う。見ている方向は、二十歳の頃からずっと変わっていないはずなのに、知識や知見が増えることで、見え方はまったく違って見えてくる。
次回 キュレーターって何なのよ?
