フリーランスAさん、独立記念日とKENZOのTシャツ
ギャラリーIに勤めていた頃、催事へ販売出張に出ることがあった。催事には他のギャラリーのスタッフも集まってくる。その中にいたのが、同業者のAさんだ。
社会人3〜5年目で独立する人は多い。Aさんもそのひとりで、これからフリーランスのアート販売員として歩き出そうとしていた。独立後は私のいたギャラリーにも入る予定になっていて、私の先輩スタッフとのこんな会話を聞いた。
Aさん「服装はどんな服で行けばいいですか?」
「Tシャツとか、カジュアルな服装で大丈夫ですよ」と先輩スタッフ。
Aさん「僕、ずっとスーツでしか働いたことがなくて。カジュアルって難しいですね……」
Aさんは何を着ればいいかわからず、困った顔をしていた。すると先輩が、「次の展示のテーマが『動物』なので、動物のTシャツなんていいんじゃないでしょうか」。
その瞬間、「ちょうどいいTシャツがある!ありますあります!!」と、Aさんの表情がぱっと晴れた。
翌日は展示の最終日。遠方から来ていたスタッフは、スーツケースを転がして出勤する。Aさんも同じようにスーツケースを持ってきていて、そこから愛用のTシャツを引っ張り出して見せてくれた。
Aさん「これ、このTシャツでどうでしょうか!?」
昨日の不安そうな顔はどこへやら、満面の笑みで見せてくれたのは、KENZOの動物グラフィックT。新しい一歩を踏み出すAさんの勇気に感激しながら、お気に入りの一枚がAさんの明日をつくっているのを目の当たりにした。これぞファッション、という瞬間に久しぶりに立ち会えて、ただただ嬉しかった。
私は服を販売する時いつも考えている。誰かがクローゼットからその服を選ぶ、朝のこと。「この服を着る日は、どんな一日になるだろう。朝は眠い? それとも、窓をパーッと開けたくなるくらい前向きな気分?」服が誰かの今日をつくっている瞬間に出会えると、たまらない。
社会人3年目、5年目。フリーランスや独立、転職を目指していますか? そんなとき、あなたの明日を支えてくれているものは何ですか?
